
秋田県の冬の風物詩である『季節ハタハタ漁』。毎日新聞全国版夕刊の写真特集紙面『eye』に、取材をさせていただいた内容を昨年ご掲載いただきました。神の魚を求め、漁師たちはうねりの海に挑み続けます。

冬の始まり。秋田の海に冬季雷が轟き、海が大きく時化る12月頃。『ハタハタ』が、深海から大群を成して産卵のために沿岸の『藻場』に押し寄せます。特に男鹿半島は、小型定置網や刺網を使い、沿岸部で行われる季節ハタハタ漁の一大漁場として古くから名を馳せ、長く厳しい秋田の冬に大きな恩恵をもたらしてきました。人々はハタハタを、雷神が遣わす『神の魚』として『鰰』、または『鱩』や『雷魚』と綴り、ありがたい魚として特別な思いを文字に込めました。そしてハタハタは、12月31日に行われる伝統行事『男鹿のナマハゲ』で、神の使いであるナマハゲに捧げられる神聖な魚でもあります。畏敬の念を表すように、男鹿半島周辺の海岸沿いには、ハタハタの大漁を願い魂を供養する『ハタハタ塚』が大昔から建立され、ハタハタへの深い感謝の思いを秋田の人々は示してきました。


私が取材をさせていただいた漁師の皆様は、豊漁の時代も、禁漁の時代も、ハタハタ漁の変遷の歴史を全て経験してきました。この数年間は漁獲量の減少が続き、操業日数の上限を設けるなど資源回復への挑戦が続いています。新型コロナウイルスという難しい社会状況の中で、取材を受け入れていただいた漁師の皆様に心から感謝いたします。
『eye』には、カンボジアで取材した内容も過去にご掲載いただいてきました。


約半年間の雨季が明ける11月。カンボジアでは、勇壮な伝統の手漕ぎボートレース『水祭り』が満月に合わせ、3日間にわたり開催されます。水祭りは雨季明けを祝い、乾季を迎い入れ、豊穣をもたらす大河へ感謝をささげる国を挙げての最大の祝い事となっています。首都プノンペンの王宮前を流れる『トンレサップ川』の岸辺には数万人が集い、水祭りの華である大型の手漕ぎボートレースに、人々は歓喜し、歓声をおくります。


現代カンボジア最大の社会問題の一つである土地強制収奪問題。政権と開発企業が結びつき、都市開発やプランテーション開発、ダム開発などによって人々の土地が収奪されていく。2003年以降カンボジアでは、40万人を超える人々が土地強制収奪の被害を受け居場所を失ったと言われています。声を上げる人々に対して政権は時に、軍と武装警察を動員し、暴力的に弾圧を行使していきます。華々しく見える経済成長の陰には、土地を失い人生を破壊された人々の、血の滲むような苦悩が刻まれています。


東南アジア最大の淡水湖『トンレサップ湖』。琵琶湖の約4倍の大きさを誇る豊穣の大湖がカンボジアの中央部に位置しています。その湖には、100以上の湖上生活者の村である『水上村』が点在し、湖上の社会を築いてきました。私は2004年に、プルサート州にある『コンポンルオン』水上村に生きる人々と出会いました。彼らは、数百年前にベトナムから移り住んだベトナム人漁民のコミュニティを数世代にわたり築いており、主にカトリックと仏教を信仰しながら、湖で生きるすべを身に着けてきました。湖上に生まれ、湖上に生き、湖上で命を終えていく彼らの営み。私がカンボジアで、最も長い期間取材を続けている物語の一つになります。
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