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  • Satoshi Takahashi

カンボジア総選挙取材2023

更新日:2023年12月23日


世襲による新首相就任が決まったフン・セン首相の長男フン・マネット氏。総選挙当日、投票したことを表すインクのついた指を報道陣に示した。2023年7月23日撮影


 

総選挙当日、一票が投じられる。2023年7月23日撮影



総選挙当日、投票する男性。2023年7月23日撮影



投票を終えた人々は、投票したことを示す赤いインクを指に付けることが義務付けられる。2023年7月23日撮影



□5年前の総選挙では―


事実上の独裁支配を構築するフン・セン政権は、前回2018年の総選挙で、与党『人民党』(CPP)に肉薄する支持を得ていた最大野党『カンボジア救国党』(CNRP)を強制的に解党に追いやり、総選挙を実施した。2013年の総選挙で台頭し、人々の支持を集め続けていた救国党の存在に脅威を感じた末の、暴挙に等しい決定だった。公正な社会を求めようとする人々の受け皿はカンボジア社会から失われ、政権に立ちむかう人々は『死の脅迫』を含む恒常的な脅しと襲撃にさらされた。弾圧は、市民の声を反映する独立系メディアにもおよび、2018年の総選挙の約一年前には、内戦後初の日刊英字紙『カンボジア・デイリー』も、真偽不明の巨額の未払い税を突如突き付けられ、廃刊に追い込まれた。取材現場でよく顔を合わせていたカンボジア人ジャーナリストも、スパイ容疑の濡れ衣を着せられ、逮捕されていった。人民党を支持しないと弾圧が待ち受ける。フン・セン政権は、そのような社会を作り上げた末に総選挙を断行し、125議席の全てを掌握する一党支配を実現した。民主化への道のりを大きく逸脱する動きに、総選挙支援を続けてきた米国と欧州連合は支援を取り止め、選挙監視団の派遣も見送る決断をした。一方で、『一帯一路』の要衝としての価値をカンボジアに見いだした中国は、同国に対する最大の支援国家となり、総選挙の際も、22億円の支援金を提供した。


政権によって廃刊に追い込まれたカンボジアを代表する内戦後初の日刊英字紙『カンボジア・デイリー』最後の紙面。政権と対峙してきた最大野党『カンボジア救国党』の党首で、人権活動家としても著名なケム・ソカー氏が国家反逆罪の濡れ衣を着せられて、逮捕されゆく姿が最後の紙面の表紙だった。その最後の紙面には『(政権は)完全な独裁に没した』と太く印字された。権力の横暴と闘い続けてきた同紙の、最後の意地だった。廃刊日の2017年9月4日、カンボジアデイリーのオフィスで撮影



『カンボジア・デイリー』の表紙に掲載された私の取材した写真。著名な人権活動家のおばあさん、Nget Khun氏の釈放を、涙を流して政権に訴える、 Nget Khun氏の孫と仲間の姿。政権による市民社会への弾圧が激しさを増していた2014年11月撮影。2014年から廃刊までの約3年間、私の取材した写真を掲載していただいた



政権と開発企業が結びつく土地強制収容の被害を受けた人々の抗議運動を、暴力で弾圧するセキュリティガード。近年のカンボジアでの取材は、強権に異を唱える市井の人の願いが、力で踏みにじられていく現場の連続だった。2014年2月14日撮影



フン・セン政権の権威主義的姿勢と対峙していたカンボジアを代表する政治評論家であり、国民から尊敬を集める社会運動家でもあったケム・レイ氏。市民社会への弾圧が加速していたさなかの2016年7月10日、銃撃を受けて暗殺された。2016年7月10日撮影



「私は、権力の横暴には絶対に屈しない」控訴審を終えて、刑務所に連れ戻されゆくテップ・バニー氏はそう叫び、フン・セン政権の弾圧に対し、断固たる意志を示した。カンボジアの民主化運動の象徴的存在だった彼女の投獄は、立ち上がる人々への脅しのような出来事だった。約2年間の投獄の末、彼女は渡米。現在は、事実上の亡命生活を余儀なくされている。彼女以外にも、フン・セン政権の弾圧と闘う人権活動家、ジャーナリスト、野党政治家が祖国を追われ、海外での亡命生活を強いられている。2017年2月15日撮影



2018年の総選挙で投票するフン・セン首相。最大野党を解党に追い込み、メディアを弾圧し、人権活動家、野党政治家を投獄し、市民社会に恐怖を植え付けた中で断行された総選挙だった。フン・セン氏は現役として世界最長の38年間、首相の座に君臨した。2018年7月29日撮影


 

□2023年の総選挙は世襲のための舞台―


一党支配を成し得た2018年から5年。この度の総選挙でも、フン・セン政権は同様の形で、救国党の流れを組む有力野党『キャンドルライト党』を総選挙への参加から排除し、不都合なメディアを閉鎖し、人権活動家、野党政治家を逮捕・投獄し、総選挙を実施した。2023年の総選挙が、フン・マネット氏を首相の座に据える舞台であることを物語るように、総選挙キャンペーン最終日には、フン・マネット氏が人民党の大集会に、父であるフン・セン首相抜きに姿を見せた。総選挙前後には情報統制も敷かれ、複数のメディアのサイトが閲覧できなくなった。また、投票への棄権を呼び掛けたり、無効票を投じることを促す行為が罪となる選挙法の改正が行われ、投票の自由は、市民社会からさらに奪われていった。



情報統制が敷かれ、閲覧ができなくなったRadio Free Asia (RFA)のサイト。RFA以外にも、2017年に政権によって廃刊に追い込まれたCambodia Dailyのサイトを含めた複数のメディアのサイトが、総選挙前後に閲覧が不可能となった。政権にとって不都合なメディアを対象とした情報統制は、2018年の総選挙の際も行われた。2023年7月23日撮影



総選挙キャンペーン最終日、『人民党』(CPP)の大集会に押し寄せるCPP支持者たち。2023年7月21日撮影



総選挙キャンペーン最終日、支持者との記念撮影に応じるフン・マネット氏。2023年7月21日撮影



総選挙キャンペーン最終日、街を行進するフン・マネット氏。2023年7月21日撮影



『一帯一路』による中国の浸食を表すかのように、プノンペンの街では、中国の開発企業による建設が進む。建設企業の看板と、フン・セン首相の顔写真が用いられた『人民党』の看板が、総選挙キャンペーン最終日の取材現場から見えた。2023年7月21日撮影



開発が年々進むプノンペンの街。メコン川を渡った街の対岸のフェリー乗り場の土手には、路上に生きる子どもたちが集っていた。2023年7月18日撮影


 

勝利があらかじめ決定づけられた2023年の総選挙で、125議席中の120議席をフン・セン首相率いる人民党が掌握した。総選挙後の7月26日、フン・セン首相はテレビ演説で、国民に向けて発言した。「私は首相を辞し、フン・マネットが新首相の座に就く」と。親から長男への巨大権力の『世襲』。以前から確実視されていたことが、明白な事実となった瞬間だった。私は、2003年からカンボジアでの取材を開始し、2013年からは、フン・セン政権の弾圧に命をかけて抗う市民運動を集中的に取材してきた。その10年間で見てきた、数々の弾圧の末に辿り着いた結末は、独裁体制を確固たるものとする世襲政権の姿だった。38年間首相の座に君臨したフン・セン氏は、今後10年間は人民党の要職に就くことを明言しており、院政を敷くような形で、新首相フン・マネット氏を背後から支えると見られている。


 

総選挙日の約2ヵ月前に、提出書類の不備を理由に突如、選挙管理委員会によって総選挙への参加から排除された最大野党『キャンドルライト党』の副党首ソン・チャイ氏。個人の意志を投じるために投票所を訪れた。2023年7月23日撮影



開票作業を始める総選挙スタッフ。2023年7月23日撮影



投票用紙を開封する総選挙スタッフ。2023年7月23日撮影



ある投票用紙には大きく×印が書かれていた。人々は、独裁への無言の抵抗を無効票を投じることで表現した。2023年8月5日、選挙管理委員会は、正式な選挙結果を発表した。全125議席の内、120議席をフン・セン首相率いる人民党が獲得。残りの5席を、王室系の政党であるフンシンペック党が獲得した。投票率は84.59%、有効票777万票。人民党が最多の640万票、フンシンペック党が71.6万票を獲得した。無効票は44万票に上った。2023年7月23日撮影


 

「1993年の、第1回目の総選挙の時。まだ薄暗い朝からずっと、2時間かけて、投票所まで歩いていきました。あの頃は、選挙を妨害しようと森の中から銃撃してくるポル・ポト兵もいて、命の危険がありました。でも私は、独裁者を生まない、二度と国民が苦しむことのない平和な未来を願って投票所に向かい、投票しました」。今から30年前の記憶を、83歳のおじいさんが話してくれた。ポル・ポト政権による虐殺と、20年余りに及ぶ内戦を生き抜いたおじいさんにとっての、あの日の『投票』。おじいさんの思いは、30年前を生きた、市井の人の願いの結晶のように思えた。2023年7月14日撮影


 

8月22日、フン・マネット氏を首相に据えた新内閣が誕生した。フン・マネット氏以外にも、複数の主要閣僚の子どもたちが入閣を果たし、フン・セン政権内だけで世代交代が成された世襲内閣と呼べる陣容となった。権威主義的姿勢を受け継ぐのか。異なる市井の声に耳を傾けるのか。新体制に移行したカンボジア。私はこれからも同国を見つめ、人々の姿と思いを、撮り続けていきたい。


 

フン・マネット氏の首相就任を各国のメディアが報じた。アメリカのフォトエージェンシー『Getty Images』から配信された私の総選挙取材の写真も、CNNに掲載された



オーストラリアのシドニーに拠点を置く国際政策研究機関『Lowy Institute』の発行する『The Interpreter』に、カンボジア総選挙を取材した私の写真を一枚、ご掲載いただいた(本文の2枚目)。巨大権力の世襲を実行し、新内閣が発足したカンボジア。その状況が、考察されている。Cambodia's democracy deficit: Australia's role and responsibility | Lowy Institute


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