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  • Satoshi Takahashi

新聞連載『権力の世襲』ルポ・カンボジア政治と人々

更新日:3月19日



世襲による新首相就任が決まったフン・セン首相の長男フン・マネット氏。総選挙当日、投票したことを表すインクのついた指を報道陣に示した。2023年7月23日撮影


 

秋田魁新報社の紙面とニュースサイトで、3回シリーズの連載『権力の世襲 ルポ・カンボジア政治と人々』を行わせていただきました。今年の夏に取材した『第7回カンボジア総選挙』のフォトルポルタージュです。


ポル・ポト政権による悲劇的な支配と内戦後、民主的な国家の樹立を目指し実施された第1回総選挙から30年後。第7回総選挙が7月23日に実施されました。2018年と同様に、最大野党を排除して実施された総選挙では、与党・人民党が125議席中120議席を掌握。その後、カンボジアの人々が目のあたりにした総選挙の結末は『権力の世襲』でした。

内戦中から首相の座に就いたフン・セン氏は38年7か月、日数にして1万4099日の間、権力を維持。現役首相としては、世界最長と言われる在任期間でした。大きな力による弾圧は亡命者を生み、主要英字紙は廃刊に追い込まれ、権力に立ち向かう人々は次々に投獄されていきました。内戦以降、カンボジアの人々が懸命に築こうとしてきた民主化の灯。近年のカンボジアでの取材は、その一つ一つが力で踏み消されていくような、悔しい現場の連続でした。


連載を通して、不条理に声を上げようとする人々の願いと現状に、少しでも関心をもっていただくことができましたら幸いです。第1話(上)は、総選挙取材当日の様子を伝えています。





 


総選挙日の約2ヵ月前に、提出書類の不備を理由に突如、選挙管理委員会によって総選挙への参加から排除された最大野党『キャンドルライト党』の副党首ソン・チャイ氏。個人の意志を投じるために投票所を訪れた。2023年7月23日撮影


 

今年7月の第7回総選挙で、権力の世襲を実行したカンボジアの長期強権政権。2018年と同様の形で、最大野党を排除して実行された選挙でした。2017年11月に、政権によって強制的に解党させられた当時の最大野党『カンボジア救国党』の系譜を継ぎ、民主と人権の回復を掲げ支持を得ていた有力野党『キャンドルライト党』。総選挙が近づくにつれて、彼らへの襲撃事件や脅迫が相次ぎ、亡命に追い込まれた人もいました。そして、総選挙を2か月後に控えた今年5月。政権の影響下にある選挙管理委員会は提出書類の不備を理由に、彼らの総選挙への参加を認めない決定を下しました。18年と同様に最大野党を締め出すことで、確実な勝利と世襲をもくろんだ圧力だと私には思えました。


第2話(中)では、与党・人民党への鞍替えを強要され、日本へ亡命を決行したキャンドルライト党員の思いと、弾圧の実態を伝えています。





 


ある投票用紙には大きく×印が書かれていた。人々は、独裁への無言の抵抗を無効票を投じることで表現した。2023年8月5日、選挙管理委員会は、正式な選挙結果を発表した。全125議席の内、120議席をフン・セン首相率いる人民党が獲得。残りの5席を、王室系の政党であるフンシンペック党が獲得した。投票率は84.59%、有効票777万票。人民党が最多の640万票、フンシンペック党が71.6万票を獲得した。無効票は44万票に上った。2023年7月23日撮影


 

今年7月の第7回総選挙で最大野党を排除し、権力の世襲を実行したカンボジアの長期強権政権。父親から権力を世襲したのはフン・セン氏の長男フン・マネット氏だけではありません。政権を支えてきた内務大臣と国防大臣の息子もそれぞれ父親のポストを引き継ぎ、フン・セン氏の三男も重要閣僚となりました。世襲による新政権は全体の若返りが図られ、総選挙は与党・人民党の永続的な権力掌握を目論んだ、周到に用意された舞台のようでした。

総選挙の6週間前には、フン・セン政権によって突如選挙法が改正され、投票の棄権や無効票の投票を促す行為をした者に対し、選挙権を剥奪するなどの罰則が設けられました。選挙の正当性を問う声を封じ込め、無効票を減らし、なりふり構わず世襲を実行するための手段だと思えました。


ポル・ポト政権による虐殺と内戦を生き抜き、1993年の第1回総選挙で1票を投じた83歳のおじいさんは、薄暗い朝から2時間かけて投票所まで歩いて向かい、二度と圧政と独裁を生まない平和な未来と民主主義の実現を夢見て投票したと話してくれました。30年前、彼があの日思い描いた未来は、今のカンボジアにあるのでしょうか。


人民党を支持しなければ弾圧が待ち構えるカンボジアの社会構造の中にあって、無効票は全体の5%(44万票)に達しました。それは独裁に抗い、自由と民主のともしびを絶やすまいと願う人々の勇気の結晶だと感じました。


私はこれからも、多くの学びと気づきを与えてくれたカンボジアを見つめ、不条理に立ち向かう人々の声なき声を伝えていきたいと思います。






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